
やしゃごの朝子です。
三回目の授業。今日は、災害図上訓練DIGを行いました。
DIGとは、「Disaster Imagination Game」の頭文字。テーブルの上に広げた地図を使い、災害を想定してコミュニティレベルで防災上の課題を洗い出すためのワークショップです。
住民を幅広く巻き込み、彼らの主体性を高めるのに有効な手法。それぞれのコミュニティでリーダーシップを発揮することを期待されている青年たちに、ぜひ具体的な方法論として学んで欲しいと思い、授業に取り入れることにしました。
さて、ワークショップは、まず前提条件の提示から始まります。今回は、私たちが滞在している船を、架空の町に見立てて行いました。
「震度7の地震が我々の町を襲った。30分後に、4階の高さに届く津波が発生する予定。日本政府からの支援が届くまで、最低3日間はかかる見込み。政府からの情報は、日本語のみ。」
今回の参加者たちの中には、地震や津波といった災害に無縁の地域出身の人もいます。でも、全員が防災館で震度7の地震シミュレーションを疑似体験していたので、どの国の青年たちも「あぁ、あの揺れか」と理解しやすかった様子。
そして、「政府からの情報は日本語のみ」という条件をつけたのは、言語が通じない人がコミュニティにいる場合、防災上配慮しなければならないポイントも一緒に考えるきっかけにしてほしかったからです。

ちなみに、今回は架空の町ではあるものの、実際の船のフロアーマップを活用することにして、よりリアリティを持たせました。自分たちが一緒に生活している地域(船上)において、住民(共同生活を送る参加青年たち)が一緒になって、避難する際に「どこに」「どうやって」「誰がどんな支援を必要とするか」を考えます。
【ステップ1】
まず、グループごとに地図を囲んで、地形の特徴や危険地帯、避難に使える通路、地域の役に立つ人や施設、特に支援を必要とする人々の居住地域などを話し合いながら探します。それぞれの個所には、マーカーで色を塗ったり、シールで目印をつけていきます。

【ステップ2】
次に、避難するべき場所、そこにたどり着くまでの経路の選択、避難方法について検討します。
どこでどんな支援が必要とされるだろうか。誰・どの施設がそれを解決する技術や能力を持っているだろうか。
「あの人はエンジニアだよ!」「この人は〇〇語と△△語も話せるよ」「あの人はお医者さんだって!」など、それぞれの住民が持つ得意分野も挙げてみると、なかなか頼もしい人材の宝庫に見えてきました。

【ステップ3】
そしてグループごとに検討結果を発表。
同じ場所や施設に対しても、グループごとに「使える」「危険」などの捉え方が違うのが興味深いところです。避難場所として目指す場所がさまざまなため、選ぶ経路についての考え方も異なってきます。
あるグループは、大きなホールを安全な避難場所として想定しました。が、別のグループは、「地震が起きたら天井のシャンデリアが落下して危険かもしれない」と、そこを危険個所として想定していました。
お互いの考えを比較してみると、わかっているつもりの箇所でも理解が深まったり、新たな発見があったりします。

【ステップ4】
そして全体ディスカッション。
防災策と減災策を、それぞれ自助・共助・公助の三つに分けて、ブレインストーミングします。
まずは自分自身や家族など、最小単位で身を守ること。次に、近所同士助け合うこと。行政からの支援が届くまでには、どうしても時間がかかること。それまで、自分たちの手で救える命・守れる命を増やすためには、どうしたらいいだろう?
出てきた案は、「家庭レベルで直ぐに実行できること」から「行政と掛け合って検討してもらうべき大きな公共事業」まで、大小さまざま。でも、このように一覧表に分類してみることで、各アクションをとるべき主体、その難易度や優先順位を客観的に検討することが可能になってくるのです。
今回の想定は健康な18歳~30歳までの青年たちが暮らす架空の街でしたが、実際には、もっと多様な住民が暮らしています。小さい子供と母親、お年寄り、障がい者、外国人などの要援護者の視点、地域に伝承される知恵や、いざとなったときに活用できる能力や才能の持ち主などの視点を取り入れつつ、自分たちの暮らす街の弱みと強みを洗い出していくことは、地域の防災力の発掘と強化に役立ちます。
参加青年たちからは、「自分たちが毎日何気なく暮らしていた住環境について、いろんな気づきがあってびっくりした」「何をやるべきなのか、明確になった」「国に帰ったら、ぜひ自分の地域でもこのワークショップをやってみたい」などと好評でした。
コミュニティの防災力を高める具体的な手法として、DIGはアナログながら非常に優れたツールです。