そもそも「復興」とはどんな状態を目指すことなのでしょうか。東日本大震災後、NGOスタッフとして東北の緊急支援・復興支援業務に携わるなかで、日々考えさせられてきました。
2015年3月に仙台で開催された国連防災世界会議でも「Build Back Better(以前より良い状態に再建する)」と謳われました。確かに、マイナスの状態になったものをゼロまで戻すこと、更にはプラスまで持っていければ成功なのかもしれません。しかし、理想はともかく現実は一筋縄ではいかないのが、当事者の抱える深い悩みです。
どういう状態を目指すのか、そのためには何ができるのか?
・・・絶対の正解など決して無い問いですが、仙台やしゃご屋なりに出来ることを考えてみました。
阪神淡路大震災は地震による都市災害でしたが、東日本大震災では主に沿海部での津波による被害が特徴的です。これら東北の沿海部は、もともと一次産業とそのサプライチェーンという構造に大きく依存し、過疎化・高齢化という課題を抱えていました。被災以前より、雇用機会の少なさが若い世代の故郷への定着を難しくしているという課題を抱えていた地域が、津波により壊滅的な打撃を受けたことで、事業所数・従業者数の更なる著しい減少を引き起こしました。 (※参考:政府統計 平成24年経済センサス)
そこで仙台やしゃご屋の考える地域復興のポイントは、以下の三点です。
①起業促進
②事業拡大
③雇用機会の創出
この三点が満たされたら、若い世代も東北の将来性に期待を持てるようになるでしょう。経済の活性化・収入の安定化が期待できれば、故郷に残る、あるいはUターンやIターンという形で定住しやすくなります。
ただし、現地経済の活性化には東北地域外との取引による、外貨収入が不可欠です。
外貨収入をもたらす方法としては、【観光の促進】と、【地域産品の物販拡大】です。この二つが活性化すると、それに伴う起業や事業拡大が起こり、雇用が創出されていきます。
そこで、「商売繁盛の福の神・仙台四郎」としての知名度をいかし、すまいる四郎というキャラクターで、この歯車が勢いよく回転できるようにお手伝いをすることが、本プロジェクトの狙いです。
「被災地観光」という言葉があります。被害の爪痕から教訓を学び取ろうという高い意識や、頑張る当事者の方々を応援しようという気持ちなどが、観光客をその地へ向かわせるモチベーションとなっています。私自身、東北の復興・防災への取り組みに関わり続けてきた経験から、その意義や価値は十二分に認識しています。それでも、「被災地」+「観光」という言葉のコンビネーションに、モヤモヤした想いをぬぐいきれないのが正直な気持ちです。
なぜそんな気持ちになるのか、ずっと考えていました。
震災後の神戸に観光で何度か訪れたことがあります。東日本大震災を経験する以前だったこともあり、震災の爪痕を見に・・・という意識で行くことはありませんでした。オシャレな街を観光すること、美味しい神戸牛やスイーツを食べ歩くことが何よりの楽しみで、行くたびに「また来たい!」と魅力を感じたものでした。
おそらく、私だけではなく多くの観光客が、神戸に対して同じ思いなのではないかと思います。その土地に美味しいものがあり、楽しく嬉しい経験が出来ると思えばこそ、人は喜んで集まると思うのです。つまり「好感」です。
それに対して東北が「被災地観光」と掲げた時に、それに対して県外の人々が抱くであろう感情は「同情」や「共感」ではないでしょうか?発災を契機に同情や共感のおかげで人々の関心が東北に繋ぎとめられているとして、この先いつまでその状態が続くのだろう。そんな焦りを感じるのです。
亡くなった方々の命を決して無駄にしない決意や、災害の教訓を未来に向けて発信し続けることは絶対に必要ですし、それは私自身も続けていきます。ただ、当事者の想いと、周辺の人々との感覚には、時間を経るにつれどうしても温度差が生じてしまうのが現実。そのギャップを健康的・建設的に埋めるためにも、東北の魅力を発信する際には、「好感」を得る工夫がもっと必要だと思うのです。幸い、東北には発信できる魅力的なコンテンツが昔から沢山あります。
実際のところ、被災地は、いつまでも被災地として打ちひしがれているわけではありません。
東北人の物静かながら力強い頑張りから、勇気や感動や喜びを感じられることが共感。
そして、東北の魅力それ自体の十二分な輝きと出会っただけで、楽しく嬉しく元気な気持ちになれるのが好感。
東日本大震災から年数が経つほどに、同情から共感、共感から好感へと、明るいエネルギーを発信していける東北でありたい。その結果として、全国・全世界に東北ファンが増えて、ますます東北に活気がもたらされる循環を生み出すこと。それが私の、復興にむけた本プロジェクトの目標です。
【仙台四郎】のストーリーが象徴してきたもの。それは、四郎本人の純真な笑顔の価値もさることながら、仙台商人の、誰に対しても敬意を払い、笑顔で接する心の在り方だと言えます。
ただし、【仙台四郎】は民間信仰の対象として、その写真が土地の人々から神格化されていることもあり、そのままでは商業活用しにくいのがブレイクさせずらい要因でしょう。そこで、四郎の笑顔を親しみやすくデフォルメし、また仙台に限定せず被災地域を応援したいという想いから【すまいる四郎】としてキャラクター化しました。
【仙台四郎】のストーリー自体、多様性を受け入れる住みよい街、おもてなし精神、商売哲学などを象徴しており、多くの人々からの共感・好感を得やすいものです。笑顔に象徴される地域イメージがキャラクターの普及とともに促進されれば、都市のイメージアップはもちろん、地域の若者達にとっても郷土愛の醸成・強化につながります。
全国的にご当地キャラクターがブームな昨今、宮城県や東北各地にも沢山のキャラクターが活躍し、各地域のプロモーションに貢献しています。【仙台四郎】は商売繁盛の神様とされており、既に全国的な認知の広がりという土台もありますので、一般のキャラクターとは性質を異にします。だからこそ、【すまいる四郎】は他のご当地キャラクターと競合することなく、むしろコラボレーションにより相乗効果を発揮して、地域の活性化をサポートすることでしょう。